観光旅行における強い味方と言えば、地元の観光ガイドだ。限られた時間の中で、その土地の魅力を堪能するには、観光スポットを毎日の様に巡っている地元のガイドの深い知識と経験が頼りになる。しかし、アメリカはニューメキシコ州の南部にあるホワイトサンズ国定公園には、一年の間に6回しか開催されないLake Lucero(ルセーロ湖)ツアーという一風変わったツアーが存在する。今回、そのツアーに参加してみたので、ここでレポートしたい。
ホワイトサンズ国定公園は、琵琶湖より一回り大きい面積に広がる巨大な砂丘地帯に位置する。ルセーロ湖ツアーに参加するには、アメリカ国立公園局の公式サイトから申し込む以外になく、指定フォームに記入した後、Eメールで送付すると、数日後に参加可否が返信されてくる。一年のうち、1-4月、11月、12月の月1回ずつ、計6回しか開催されず、所要時間は3時間で、現地集合、現地解散だ。
その現地集合場所と言うのがまた面白く、何と米軍が保有するミサイル射撃場のゲートの前に車に乗って集合する。それもそのはず、砂丘地帯のうち、国立公園なのは4割ほどで、残りの6割は全米でも最大規模のミサイル射撃場として使われているのだ。
ゲートの前でレンジャーに名前を告げた後、定刻になると、参加者の車は一列になって米軍施設の中を通り抜けていく。トレイルの入り口まで30分程度は運転し、両側の光景は非常に興味深いが、残念ながら写真撮影は厳禁とのことだった。
トレイルの入り口に着くと、参加者は車から降り、レンジャーの後ろに付いて、砂漠の中の道なき道を歩いていく。この日は曇りの気候でむしろ肌寒いくらいだったが、好天時は冬でも30度を越えることもあると言う過酷なトレイルだ。
歩き出して30分程で、ルセーロ湖という湖の湖岸に着く。湖といっても、砂漠地帯だけあってほとんど水はないが、その代わりに周りにガラスの破片の様なものが散らばっている。
このガラスの様に見えるものの正体は医療用ギプス等にも使われる石膏だ。その成り立ちとしては、まず、およそ2億5年前に海底であったこの一帯にプランクトンの死骸が溜まって石膏を含んだ地層となる。その後、地層の隆起や雨による地層からの石膏分の溶け出しを経て、最終的に現在のルセーロ湖の辺りに溜まった石膏分を含んだ水分から、ゆっくりと水分が蒸発し、Selenite(透明石膏)と呼ばれる結晶になったのだ。近くで見てみると、確かに結晶である。
だが、ここで話が終わっていれば、わざわざ年に6回のガイドツアーが開催されるまでもないのであり、ミサイル射撃場に戻った参加者達にレンジャー達は、ここで得た知識を元にぜひ北東のホワイトサンズ国定公園を訪れる様に促す。そこには、この地域特有の強風で少しずつ石膏結晶の破片が飛ばされ、巨大な砂丘地帯を形成しているという。
しかし、もとはといえば、小さな石膏の結晶なのだから、そこまでの大きさではないだろうと思っていた僕は、ホワイトサンズ国定公園の内部に入って息を呑む。
そこには360度どこを向いても、見渡す限りの白い砂の砂漠が広がっていた。その砂は、とても美しい白色をしていて、折りしも当日は曇り空で空までもが白いため、どこまでが空でどこまでが砂漠なのかわからなくなる程だ。
コンパスを頼りに砂漠の中を歩いてみると、ルセーロ湖に溜まった石膏から、気の遠くなる様な時間をかけて、少しずつの自然の働きでこうした美しい光景ができたのだという事実に、ひしひしと感動を覚えてくる。最初から砂丘を訪れていたら、砂丘の美しさに魅了されこそすれ、ここまでの心の動きはなかったかもしれない。
年に6回しか開催されず、スケジュールを合わせるのが難しいとは思われるが、ニューメキシコ州のホワイトサンズ国定公園を訪れる方は、うまく都合がつけば、是非ともルセーロ湖ツアーに参加して頂きたい。
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