アメリカ南部の歌姫ビヨンセのニューアルバムLemonadeが持つメッセージ

4月23日、我らがヒューストン出身の歌姫ビヨンセのニューアルバム、「Lemonade」が彼女の夫であるJay Zがプロデュースする音楽配信サービスであるTidalで限定配信され、世界中で大きな人気を集めている。そして、彼女は4月27日のフロリダ州マイアミでの公演を皮切りに、4か月に及ぶワールドツアー、The Formation World Tourをスタートさせた。
このアルバムの中でも、2月6日に先行発表され、翌日2月7日のスーパーボウルのハーフタイムショーでも披露された曲「Formation」は極めてメッセージ性の高い曲となっていて、アメリカ南部を深く知る上でも役立つと思うので、当ブログなりに考察してみたい。

まず、Formationのミュージックビデオは、What happened at the new Orleans?(ニューオーリンズで何が起こったんだ?)という男性のラップとともに、洪水に沈んだニューオーリンズの街に浮かぶパトカーの上に座ったビヨンセが登場する。

この洪水の風景は明らかに、2005年に発生し、ニューオーリンズの街に壊滅的な被害を与え、今でもその影響の残るハリケーン・カトリーナを表現している。ニューオーリンズでは当時、黒人の低所得者層の多い地域が、政府による対応の遅れもあり、略奪や暴行の横行する無法地帯と化し、州兵による治安維持も行われた。

パトカーの上に乗ったビヨンセを映した映像は、その後、警察官を映した映像に切り替わる。これは、そのハリケーン・カトリーナで根強く残る黒人への人種差別が浮き彫りになり、ここ最近も、白人警官による黒人の射殺事件が頻発している状況を示唆しているだろう。ビデオの後半ではより明示的に”Stop shooting us”(私達を撃つのはもうやめて)という過激なメッセージが映し出される。

各種メディアが指摘しているが、このFormationがリリースされた2月6日は、2012年にフロリダ州で白人警官に射殺されたTrayvon Marin少年の誕生日である2月5日、2015年にテキサス州で白人警官に逮捕された後に刑務所で自殺したSandra Blandの誕生日である2月7日の間の日にちとなっている。二人の死は、最近の黒人による人種差別に対する抗議運動のシンボルとなっており、ビヨンセ側も意識していた可能性が高い。

そして、サビの部分では、そうして黒人を巡る暗い状況が示唆される中、ビヨンセが力強く歌い上げる。

My daddy Alabama, Momma Louisiana
You mix that negro with that Creole make a Texas bama
I like my baby heir with baby hair and afros
I like my negro nose with Jackson Five nostrils
Earned all this money but they never take the country out me
I got a hot sauce in my bag, swag

(私のお父さんはアラバマ生まれ、私のお母さんはルイジアナ生まれ。二人は黒人とクレオール(ルイジアナ州のフランス人やアフリカ系黒人等を先祖に持つ人々)を混ぜて、私というアラバマ系テキサスの人間を作ったの。

私は私の娘が黒人的なアフロの髪の毛を持ち、私のルーツを受け継いでいることが好きだし、ジャクソンファイブみたいな鼻の穴をした、私の黒人らしい鼻が好きなの。私は多くのお金を稼いだけど、誰も私のふるさとを取り上げることはできなかったの。

私はバッグの中にホットソース(ルイジアナやテキサスの人々が大好きな辛いソース)をいれたわ。)

つまり、ビヨンセは、黒人を巡る現代の暗い状況に対して、現代において最も成功を収めた黒人の一人として、自らが黒人としてのルーツに誇りを持っていることを強調しているのである。著者の知る限り、ビヨンセがここまで人種的なメッセージ性の強い曲を発表することは珍しく、鬱屈とした感情を抱える黒人住民達にも大きな勇気を与えているだろう。ミュージックビデオの後半では、軽快にダンスを踊った黒人の少年に対して、白人警官たちが降参の意味で両手を挙げるシーンも登場する。

人種に関わらずアメリカで最も多くの人々が見るスーパーボウルでは、Formationの持つ強いメッセージ性が大きな議論を呼んだ。今週から始まったワールドツアーでのビヨンセのパフォーマンスがどういった反響を呼ぶのか、引き続き彼女の動向に注目していきたい。

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日本でテキサスバーベキューが食べられる店 横浜・タップルーム

以前このブログの記事伝説のテキサス・バーベキュー Salt Lick BBQでも、オースティン近郊の伝説的なバーベキューレストラン、Salt Lick(ソルト・リック)を取り上げたが、肉をグリルするのではなく、時間をかけてスモークするテキサス・バーベキューは、テキサスを代表する料理の一つで、日本で言えばラーメンの様に多くのテキサスの人々がこだわりを持っている。

一方、日本ではバーベキューと言えば専らグリルを意味し、テキサススタイルのバーベキューにはお目にかかったことが無かったのだが、今回横浜で遂に一件のテキサスバーベキューのレストランを発見した。

横浜の古い町並みが残る地区、馬車道で、大通りから外れた路地の一角に、馬車道 タップルームは控えめに佇んでいる。IMG_0096

店の入り口には、Texas Style BBQの文字とともに、見慣れたテキサス州旗が描かれた看板がある。しかもその下には、Beef BrisketやPork Ribなど、テキサスでは定番のバーベキューのメニューが並び、それだけでも感動してしまう。IMG_0097

店内に入ると、一階がキッチンとバー、二階がメインのテーブル席、三階はルーフバルコニーとビアガーデンになっており、私達は二階のテーブル席へ。アメリカンなインテリアが並ぶ中に、日本をイメージした絵がいくつか展示され、全体として落ち着いた雰囲気だ。また、フロアの端には、テキサスの地図やナンバープレートなども展示されていて、テキサスのレストランにいるかの様な気分にさせてくれる。IMG_0099

このタップルーム、静岡県の伊豆・修善寺にブルワリーを持つベアードビールというビールメーカーが経営しているレストランとのことで、バーベキューだけでなく、ビールの種類も豊富だ。しかも、ベアードビールの創業者であるブライアン・ベアード氏はテキサス出身だという。IMG_0098

ビールの種類は非常に豊富で、エールだけでも色々あり、日本では余り見かけないIPAがあるのも嬉しい。私達は昼間だったこともあり、3種類を少しずつ飲めるサンプラーを注文。テキサスでも、ShinerやSaint Arnold、Karbachなど、大小の地ビールのブルワリーがあるためか、バーではこういったサンプラーの注文ができることが多い。IMG_0102

そして、肝心のバーベキュー。残念ながら、テキサスでも一番人気の牛肉のブリスケット(肩ばら肉)は、ディナーのみのメニューということで、ポークリブ(骨付きあばら肉)とスモークチキンのプレート(1,200円)を注文。コールスローとポテトサラダが必ずついてくるのもテキサスらしい。IMG_0105

味についてはテキサスバーベキューのスモーキーな味わいは再現できていると思う。ただ、ソルト・リックの様なテキサスの有名店と比べると肉がパサパサしている(これはテキサスのバーベキュー店でもしばしば起こることだが)のと、サーブされた時点での肉の温度が若干ぬるいのが難点。但し、日本で唯一のテキサス製Smoke Master Ovenを備え、スモークには桜の木を使うなど日本でバーベキューを作るための試行錯誤も見られ、今後も継続的に通って応援していきたいと思っている。何より牛肉のブリスケットを食べないと十分な評価はできず、少なくともディナーに再訪したい。

恐らく、日本で唯一のテキサスバーベキューのレストラン。横浜を訪れた際にはぜひ足を運んで頂きたい。

馬車道タップルーム 

住所: 〒231-0013 神奈川県横浜市 中区住吉町5−63−1
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テキサス州の州花ブルーボネットについての意外な事実

日本で春を感じる花見と言えば桜だが、テキサス州では、テキサス州の州花Bluebonnet(ブルーボネット)を愛でることが春の風物詩となっている。そもそもテキサス州は多くが亜熱帯性気候で、我らがヒューストン周辺は日本で言えば奄美大島と同じ緯度なので、年中温暖で、日本の様に四季折々の自然を味わうという感覚は余りない。しかし、3月中旬から4月のブルーボネットの季節だけは、ブルーボネットがそこら中に咲き誇り、春の到来を感じることができるのである。IMG_1517

テキサス州にはいくつもブルーボネットの名所があるが、ヒューストン近郊で言えば、ヒューストンから北西に70マイル程北西に行ったところにあるBrenham(ブレナム)という街は、テキサス中央部のブルーボネット地帯の中心として知られ、まさに見渡す限りのブルーボネットを楽しむことができる。IMG_1523

そんなブルーボネットが何故テキサス州の州花になったかについて、ヒューストンの地元の新聞であるHouston Chronicleの過去の記事に、意外な事実が明らかにされていたので、ここで紹介してみたい。

Houston Chronicleの2008年3月23日付の記事How bluebonnets became state flower(どうやってブルーボネットがテキサスの州花になったか)によると、事の経緯はこうである。

20世紀の初め、テキサスでは男女間の激しい争いがあった。今以上にマッチョイズムが強かった男性の州議会議員たちは、たくましいサボテンや当時南部の主要産業であった綿花こそ、テキサスの州花にふさわしいと考えていた。それに対して、National Society of Colonial Dames of America(全米植民地婦人会)を中心とした女性達は、当時バッファロー・クローバーと呼ばれていたブルーボネットの一品種、Lupinus subcarnosusこそ、テキサスの州花にふさわしいと主張したのだ。クローバーというかわいらしい響きと、バッファローという強さの象徴が両立する呼び名は、確かに人当たりが良くたくましい、テキサスの女性のイメージに合致する。結果、紳士たらんとした男性達は、女性の望みを叶え、Lupinus subcarnosusは1901年にテキサス州の州花となった。

そして、話はこれでは終わらない。実はかわいらしいLupinus subcarnosusに対して、より大きく頑丈なLupinus texensisというブルーボネットの品種もあり、一部の人々はこの品種こそテキサスの精神を象徴するにふさわしいと主張し続けていた。そして何とそれから70年もの時を経て1971年、州議会は州花に関する法律を改正し、Lupinus subcarnosusとLupinus texensisを含む全てのブルーボネットの品種をテキサス州の州花として指定したのである。

こうしてブルーボネットにまつわるテキサスの歴史をひもとくと、この美しさとたくましさの両方を兼ね備えた花もまた違った見え方がしてこないだろうか。IMG_1530

春にテキサス州を訪れる方はぜひ道端に咲くブルーボネットを探して頂きたい。

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ヒューストンが全米で最も都市計画がヒドイ都市に選出!?

アメリカの情報サイトThrillistに、2016年3月4日付でThe 9 Worst Designed Cities in the US(全米で都市計画がヒドイ都市ワースト9)という興味深い記事があり、そのランキングの中で我らがヒューストンが最も都市計画がヒドイ都市に選出されているのだ。他のアメリカ南部の都市もランキングに登場しており、アメリカ南部を理解するのに役立つと思うので、ここで紹介してみたい。

このランキングはThrillistが複数の都市プランナーに取材して、独自に作成したという。まず、ワースト9のランキングを並べると、

9位 モンタナ州ミズーラ

8位 ルイジアナ州ニューオーリンズ(アメリカ南部)

7位 フロリダ州オーランド(アメリカ南部)

6位 ワシントンDC

5位 カリフォルニア州ロサンゼルス

4位 ペンシルバニア州ピッツバーグ

3位 ジョージア州アトランタ(アメリカ南部)

2位 マサチューセッツ州ボストン

1位 テキサス州ヒューストン

さて次に、ヒューストンが何故この様な不名誉な称号を獲得したかを見てみると、同記事は、有名な土地区画法(Zoning Law)の欠如を挙げている。その結果として、「アダルトショップの横に高級デパートがあり、さらにその横に高層オフィスビルがある」といった風景が見られることを指摘している。

確かに、全く異なる建物が隣り合っている様子はヒューストンでよく見られる風景だ。何気なく撮った写真の中でも、歴史的な建物と高層ビルが隣り合っていたりする。IMG_1234

しかし、同記事も認めている通り、ヒューストンの人々は土地区画がない事実を好ましく思っている。この都市では過去、土地区画法が何度も住民投票にかけられては否決されてきたという。

アメリカ南部の都市は総じてその傾向があるが、ヒューストンに初めて来た時に感じたのは、一見したその無機質さだ。ダウンタウンのごく一部のエリアを除いて、歩いてお店を巡れる場所はほぼ皆無で、移動は全て車。結果として、お店は中央に大きな駐車場を備えた多くのモールに集まることになり、最初はどこのモールに行っても同じに見えた。

ところが住み始めてからしばらく建つと、高速道路の脇に、突然大きな教会が現れたり、高級レストランの横に当たり前の様にストリップ劇場が並んでいたりする様子に気づき、この都市が有する混沌、自由に変化を続ける活力に魅了されてくる。それは、元よりフロンティアの時代からテキサスの人々が持っていた自由を愛する土壌を下敷きに、20世紀後半の石油ブームで、世界中から多種多様な人々が移民してきた歴史と無縁ではないだろう。IMG_1580

ちなみに同記事では、そうした都市区画の欠如が、私有車での通勤時間の長期化や公共交通の貧弱さを生み、ひいては最近まで全米で最も肥満率の高い都市という、もう一つの不名誉な称号を保持していたことにつながっているとも指摘している。私見では、確かに公共交通の不足との関連はあると思うものの、肥満率の高さはステーキからコーラに至るまで”Everything is bigger in Texas”の精神で、何でも特大サイズを注文する気風の方が問題だと感じるのだが。。。IMG_1575

 

 

ヒューストンを訪れる際には、都市区画の無さが生み出す混沌という魅力にぜひ注目して頂きたい。

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ヒューストン一の観光地 NASA・ジョンソン宇宙センターの楽しみ方

テキサス州ヒューストンに住んでいて、日本からの訪問者が来ると、ほぼ確実にお連れするのが、ヒューストン一の観光地であるNASAのJohnson Space Center (ジョンソン宇宙センター)だ。私自身10回以上訪問しているはずで、何度も訪問すると、ここをより楽しむ方法がわかってくる。今後訪問を検討している方のために、以下で紹介してみたい。

まず頭に入れておいて頂きたいのは、全米に10施設あるNASAの主な施設の中で、ジョンソン宇宙センターは主に、ミッションコントロールと宇宙飛行士の訓練を担っていることだ。『アポロ13』等の映画で、宇宙飛行士が「ヒューストン、ヒューストン、応答して下さい」といった通信を行っていたのが、ここにあるミッションコントロールセンターだ。一方、宇宙飛行士の訓練施設については、最近では漫画『宇宙兄弟』で登場することでイメージがある方も多いだろう。一方、スペースシャトルの打ち上げ自体はフロリダ州にあるケネディ宇宙センターで行われていて、ここでは見れないので悪しからず。

さて、ジョンソン宇宙センターを訪問する者はまず、センターに併設された観光用施設であるSpace Center Houstonに入ることになる。駐車場に到着すると、飛行機の上に乗っかったスペースシャトル、インデペンデンスのレプリカに出迎えられ、いよいよ期待が高まる。IMG_1325

そしてスペースセンターの内部に入ると、迫力の映像が楽しめるシアターやNASAの宇宙開発に関する展示品を集めたギャラリー、宇宙を体験できるアトラクション等が目の前に現れ、どこから行こうか迷ってしまう。私としては、まず”Destiny Theater”に向かうことをおススメする。NASAの宇宙開発の歴史がまとめられた映画であり、お連れする訪問者がNASAや宇宙開発に余り詳しくない時に重宝する。そして、歴史といっても、決して退屈な記録映画風ではなく、”Human Destiny”(人類の運命)というタイトル通り、非常にドラマティックで迫力のある映像となっており、見る者を飽きさせない。特に、映画の中盤のある場面では、ドキッとさせられること間違いなしだ。IMG_1326

その後、特に時間がない方は、スペースセンター内を最も奥まで進み、トラムツアーに参加することをおススメする。他のアトラクションはあくまで観光客向けに作られたものだが、このトラムツアーでは、トラムに乗って、実際にNASAの職員が勤務しているジョンソン宇宙センター内に入っていくことができる。赤と青の二種類のツアーがあり、一方はミッションコントロールセンター、もう一方は宇宙飛行士の訓練施設に行けるので、興味に応じて選んで頂きたい。どちらのツアーでも、最後にロケットの展示が集まるロケットパークを訪問するが、アポロ計画時代に使用された超巨大なサターンVロケットは必見だ。

また、スペースセンター内の一角には、これまでの宇宙飛行士の写真を時系列で並べたギャラリーがあり、いくつかの写真には日本人宇宙飛行士も含まれているので、時間がある方は探してみるのも楽しい。IMG_1327

最後に、スペースシャトル計画も終わり、NASAの宇宙開発も停滞してしまったと思う方もいらっしゃるかもしれない。しかし、スペースセンター内に展示されているのは、決してアポロ計画やスペースシャトル計画等の過去の宇宙開発の資料だけではなく、人類の未来を担う将来の宇宙開発計画に関する展示もあるのだ。特に、NASAの次世代宇宙船である”Orion”の展示は好奇心をくすぐられる。IMG_1332

10回以上も訪問しているジョンソン宇宙センターだが、決して飽きることはない。来るたびに様々な展示から宇宙開発に携わる人々の情熱に触れ、翌週の仕事を頑張ろうという気にさせられるのだ。ヒューストンを訪れる方には是非ともこのヒューストン一の観光地を訪問して頂きたい。

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