ヒューストンのダウンタウンまでの接続がテキサス新幹線の成功の鍵

当ブログは、アメリカ南部テキサス州の二大都市であるヒューストンとダラスを日本の新幹線技術を用いて約一時間半でつなぐプロジェクトである、テキサス新幹線(テキサス高速鉄道)プロジェクトを応援しており、現地の報道などから最新の状況を定期的にアップデートしている。

1月の記事「テキサス新幹線に対する沿線の人々の根強い反対」では、平和な生活を守りたい沿線の住民による根強い反対をもとに、テキサス州の一部の州議会議員が日本の佐々江駐米大使宛に、プロジェクトに反対する書簡を送ったことを紹介した。

前回の記事はこちら↓

テキサス新幹線に対する沿線の人々の根強い反対

その後テキサス新幹線プロジェクトは中止されることなく、次のステップとしては、今年の夏の終わり頃に環境影響報告書のドラフトが発表される予定になっているが、ここに来て、ヒューストン市の側からプロジェクトを後押しする様な動きが出てきた。

地元の新聞であるHouston Chronicle電子版の5月10日付の記事Houston really wants the proposed bullet train to make a stop downtown(ヒューストンは提案されている新幹線がダウンタウンに停車することを切望している)では、ヒューストン市が、テキサス新幹線のヒューストン側の終着駅からヒューストンのダウンタウンまでを別の鉄道でつなぐ可能性を調査するエンジニアリング会社を募集していることを紹介している。

というのは、現在のプロジェクトでは、テキサス新幹線のヒューストン側の終着駅は、市の中心であるダウンタウンから大きく外側の、US 290とLoop 610という二つの高速道路が合流する地点に作られる予定となっている。公共交通機関の貧弱なヒューストンでは、ダウンタウンまでレンタカーを利用するか、Uberやタクシーを利用するしかないが、この地点からダウンタウンの中心部までは渋滞がなくとも車で20分程度はかかり、朝夕のラッシュ時にはその倍以上かかることもある。

この不便さは、ヒューストンとダラスをつなぐ既存の交通手段である自家用車や飛行機と比べて、テキサス新幹線プロジェクトのネックになりうる。そこでヒューストン市側としては、ダウンタウンまで別の鉄道で接続する可能性を調査することで、市がプロジェクト全体の利便性を向上する余地があるか検討したいというわけだ。

既存の交通手段について触れた以前の記事はこちら↓

テキサス新幹線のある未来

Houston Chronicleの同記事によると、こうした市側の動きに対して、プロジェクトの実行主体である民間企業、テキサス・セントラル・パートナーズの広報担当であるリード氏は、同社は自社の計画の外部でのいかなる代替的な提案についても、自社の計画を「補足する」ものとして検討すると述べる一方、そうした追加の鉄道は公的な資金調達に基づく(テキサス・セントラル・パートナー自身は民間企業)とも述べたという。また、同社は引き続き2017年後半、遅くとも2018年前半でのプロジェクトの着工を予定している。

著者がヒューストンの人々との会話から考えるには、テキサス新幹線プロジェクトが既存の交通手段、特に所要時間が近い飛行機に対して魅力あるものとなるためには、ヒューストン及びダラス双方でのダウンタウンまでの接続が不可欠だと思われ、ヒューストン市が主導する調査が実行され、前向きな結果が出ることを期待したい。

写真はヒューストンの高速道路から見たダウンタウンの風景。

IMG_0253

↓アメリカ南部情報のブログランキングに参加しています。面白かったらクリックして頂けると嬉しいです!
にほんブログ村 海外生活ブログ アメリカ南部情報へ
にほんブログ村

テキサス新幹線に対する沿線の人々の根強い反対

2015年11月23日付けの記事「テキサス新幹線のある未来」に続き、当ブログではテキサス在住者の視点から、テキサス新幹線プロジェクトの動向を追いかけていきたい。

11月の記事においても、テキサス新幹線が通る沿線の人々からの反対が強いことを指摘したが、いよいよその反対が強力なものになってきた。地元ヒューストンの新聞Houston Chronicleの2016年1月14日付けの記事33 Texas officials send Japanese Ambassador letter opposing high-speed train(33人のテキサスの公務員が日本の大使に高速鉄道に反対する書簡を送付)によると、11人の共和党の州議会議員を含む33人が、日本の佐々江賢一郎駐米大使宛に、テキサス新幹線プロジェクトに反対する書簡を送付した。下記に一部を引用すると、

“Through their recently formed U.S. companies, the HSR Project would unjustly take private property for the ultimate benefit of a foreign company, ” “Furthermore, the HSR Project will cut through numerous counties that will have no stops and be permanently scarred by a track dividing land and property that has been passed down through Texas families for generations, in many cases spanning multiple centuries,” “There may be other places that are better suited for and would welcome your Shinkansen technology. We encourage you to seek out a different market where this would provide an actual transportation solution and where you may encounter less opposition.”

(最近設立された米国企業を通じて、高速鉄道プロジェクトは、究極的には外国企業の利益のために、私有財産を不公正に取り上げようとしている。…更に、プロジェクトが切り裂く多くの郡では、停車駅もできず、多くの場合何世紀にもわたってテキサスの家族に世代を超えて受け継がれてきた土地と財産が線路によって分断され、永久に傷つけられる。…恐らくあなたの新幹線技術がより適し、歓迎される場所が他にあるだろう。私達は(新幹線技術)が実際の交通上の解決をもたらし、反対の少ない別のマーケットを探すことを勧める。)

と、強い口調の言葉が並べられているが、実際、テキサス新幹線は終着駅であるテキサス州の両大都市、ヒューストンとダラス以外では、テキサス州の名門大学であるテキサス農工大学(Texas A&M University)が位置するブライアン及びカレッジ・ステーションのエリアに停車するのみの予定となっており、沿線のほとんどを占める牧草地が広がる地域には、停車駅という形での恩恵をもたらさないのは事実だ。

今回、読者の皆様により沿線のイメージが伝わる様に、実際にヒューストンからダラスまで車で走ってみた。いくつか写真を貼り付けてみたい。IMG_1242 (1)IMG_1199IMG_1204IMG_1247

上の写真は何も田舎の風景ばかり選んで取り上げているわけではなく、一部の中規模の町を除いて沿線には、ひたすらこういった牧草地の風景が広がっているのである。こうした地域の住民達が、自分達とは直接の関係のないヒューストンやダラスという都市部の住民の利便性よりも、自分達が長年守ってきた土地の方を重視しても無理はない。

こうした反対にプロジェクトの推進者側はどう反応しているのだろうか?同じくHouston Chronicleの1月22日付けの記事Plans for Houston-Dallas bullet train moving along(ヒューストン-ダラス新幹線計画が進行中)では、テキサス新幹線の事業主体であるテキサス・セントラル・パートナーズのCEO、ティム・キース氏のインタビューを記載している。その中で、キースCEOはプロジェクトは予定通りに進んでいるとしながらも、こうした反対による影響についても言及している。プロジェクトは現在、地元の理解を得られる様、新幹線を地面より高く走らせる際に、土でできた梁(Beam)ではなく、コンクリート製の高架橋を採用することを検討しているそうだ。彼によると、コンクリートの高架橋はかなり高額ではあるが、より「地元に友好的な(neighborly)」方法だという。

いざプロジェクトが実行に移されれば、少なくとも線路の建設時には、こうした沿線地域での雇用を作り出すことはあるだろう。しかし、そうした初期の経済効果を超えて、どういった継続的なメリットを沿線地域の人々にもたらすかが、地元の理解を得られるポイントと言えよう。テキサス・セントラル・パートナーズは今後、いくつかの場所で説明会を開催する予定とのことで、その動向に引き続き注目していきたい。

↓アメリカ南部情報のブログランキングに参加しています。面白かったらクリックして頂けると嬉しいです!
にほんブログ村 海外生活ブログ アメリカ南部情報へ
にほんブログ村

テキサス新幹線のある未来

日本の各種報道(官民ファンド、テキサス新幹線に出資へ 米国発を後押し)によると、我らがヒューストンとダラスを結ぶテキサス新幹線の実現に向けた日本側の取り組みが盛り上がっている。今回は、地元テキサスに住む者としての視点から、テキサス現地での報道や、実際の交通事情をまとめ、テキサス新幹線のある未来を考えてみたい。

まず、テキサス新幹線はどこを通る予定なのだろうか。地元紙の一つHouston Chronicle電子版の8月26日の記事(Feds approve Texas high speed rail corridor(テキサスの高速鉄道のルートについての連邦当局の承認)によると、環境評価を実施中の連邦当局は、4つあったルートの候補のうち、”Utility Corridor”と呼ばれるルートに候補を絞った模様だ。このルートは、そのルートの70%において、高電圧の電線に沿っていることで、電力の確保が容易になるのと、ヒューストンとダラスをほぼ直線的に結ぶことで、カーブによる新幹線の減速が抑えられるのが特徴だという。これで、テキサス新幹線の事業主体Texas Central Partnersが掲げる、「ヒューストンとダラスを1時間半で結ぶ」という目標も現実的になってくる。

では次に、ヒューストンとダラスを一時間半で結ぶというのは、既存の交通手段と比べて、どういったメリットがあるのだろうか。現在、ヒューストンからダラスに行くには、自家用車か飛行機を使うことになる。

まず、自家用車で行く場合、ヒューストンのダウンタウンからダラスのダウンタウンまでは、高速道路のI-45に沿ってひたすら進み、渋滞がないと仮定して、4時間程度かかる。一歩ヒューストンを離れると、ひたすら牧草地が両側に広がり、眠気と戦わなければいけない道ではあるが、大型の車を好み、長時間運転が苦にならないテキサスの人達にとっては、十分日帰りで往復できる距離で、実際著者も、テキサスに来てからの3年間で、合計8時間の運転には慣れてしまった。

但し、同じくHouston Chronicle電子版の7月23日の記事(Texas high speed rail passes major milestone with first fundraising announcement(テキサス高速鉄道は最初の資金調達の発表によって大きな一歩を踏んだ)によると、Texas Department of Transportation(テキサス運輸局)は、ヒューストンとダラスの両都市で急増する人口によって、2050年には同じ距離を運転するのに6時間かかる様になると予測しているという。確かに僕がヒューストンに来てからの3年間でも、人口増による渋滞の悪化は激しく、空いている時には30分で行ける距離が、ラッシュ時には一時間以上もかかることもある。6時間の距離が1時間半で行けるとなると、ヒューストン新幹線の意義も高まってくるだろう。

一方、もう一つの交通手段が飛行機だ。両都市間では、地元テキサスのLCCであるサウスウエスト航空が、1時間に1便(朝夕のピーク時には30分に1便)を飛ばしている。フライト時間はちょうど1時間で、渋滞と住んでいる場所にもよるが、空港までの移動時間は車で30分、また、フライトの1時間半前には空港に着く必要があるとして、ヒューストンの自宅を出て約3時間後にはダラスの空港に到着することができる。但し、ヒューストンもダラスも主要企業のオフィスはダウンタウンだけにあるわけではなく、町中に散らばっているので、どちらかの都市に着いた後は、結局タクシーかレンタカーを利用しなければならない。また、アメリカ人には空港のセキュリティーの煩雑さを嫌がる人も多く、やはり現時点で最もメジャーな交通手段は車と言えるだろう。

とこう書くと、仮にテキサス新幹線が実現しても、車への乗り換えの必要性は飛行機と変わらず、メリットが限定的にも思える。僕としては次に、テキサス新幹線がもたらしうる「新たな生活モデル」に注目してみたい。

伝統的に、テキサスで理想とされる生活スタイルは、郊外にプール付き庭付きの一戸建てを持ち、広大な土地に広がったオフィスや工場まで、大型のピックアップトラックに乗り込んで通うというものだ。それは、伝統的なテキサスの主要産業が、牧畜業や石油産業であることにも関連しているだろう。しかし、ヒューストンでは近年、医療産業など新しい産業の拡大にも力を入れている。そして、高度な医療の専門知識を有する人材は、自分の働く場所を選ぶ際に、「生活の質(Quality of Life)」を重視する。人によっては、公共交通機関が発達した東海岸とテキサスを比べた際に、長距離運転の必要性がマイナス要因になることもあるだろう。

実際にヒューストンでも、そうした新しい発想を持つ人材のニーズも見越して、2004年からダウンタウンの一部で、路面電車の運行を始めている。今回、テキサス新幹線の意義を考える意味でも、初めてこの路面電車を利用してみた。

路面電車の駅は無人駅となっており、利用者はチケット販売機でチケットを購入するか、Qカードと呼ばれるプリペイドカードを専用の機械にタッチすることになる。チケットはどこまで乗っても、一律で1.25ドルだ。

IMG_0600駅内に時刻表等はないが、路面電車を運行するMETRO社のHPによると、ダウンタウンを南北に結ぶRed Lineと呼ばれる主要路線については、平日の日中は6分おきに運行されている様だ。実際に5分くらい駅で待っていると路面電車が到着し、正面から見たその姿は案外かわいらしい。

IMG_0605車両が新しいこともあるが、車内は清潔に保たれており、スピードが遅いこともあるが、運行中も振動もほとんどなく、乗車中は快適だ。乗客達もマナーを守って静かに乗っており、感覚としては、日本の路面電車を利用するのと変わらない。こうした路面電車がテキサス新幹線に接続すれば、一切車を使わずに両都市間を往復することも可能になる。

IMG_0607

ということで、今後テキサスへの移住を考えている高度な専門技術を有する人材にとっては、ヒューストンとダラスのダウンタウン、そしてテキサスの二大産業都市である両都市間に、将来的に鉄道網が整備されることは、東海岸に近い質の高い生活ができることを意味する。乗客達は、移動中の数時間、運転の場合と違って、仕事をしたり読書にふけることも可能だ。テキサス新幹線の成功においては、いかにこうした人々のニーズを満たせるかが重要になってくるだろう。

もちろん、プロジェクトの成功においては、一般のテキサスの人々からの支援を得られることも同様に重要だ。地元テキサスのオンラインメディアであるThe Texas Tribuneの9月8日付けの記事(Texas Bullet Train Moving Forward Despite Obstacles(テキサス新幹線はいくつかの障害にも関わらず進んでいる)は、大都市間を結ぶ予定のテキサス新幹線が、都市部以外の沿線のほとんどの住民にとっては利用するメリットが出ないことを指摘している。沿線のコミュニティーの行政関係者には、牧畜業や地元の交通への悪影響を懸念して、プロジェクトに反対するものが多いとのことで、一部の住人は、最終的には強制的な土地収用に至ることも懸念している。

但し同じ記事では、50年にわたって死亡者・怪我人ゼロだった新幹線の安全性が、今後の議論で重要な論点になるとも指摘している。僕としては、大きな武器である安全性に対する信頼に加えて、プロジェクトが「テキサス新幹線のある未来」として、どういった生活モデルを描けるかに今後とも注目していきたい。

 

 

↓アメリカ南部情報のブログランキングに参加しています。面白かったらクリックして頂けると嬉しいです!
にほんブログ村 海外生活ブログ アメリカ南部情報へ
にほんブログ村