テキサス州ヒューストンは、ラティーノを含まない白人が人口上の少数派という多文化都市だ。アジア系の人口は人口の5%程度で全体の中では少数派だが、アジア系の内でもインド系住民は教育水準が高いことで知られ、2000年の国勢調査では、ヒューストン中心部のハリス郡に住む約三万六千人のインド系アメリカ人のうち、その65%が大学教育を修了しているとの調査結果が出ている。
そんな教育水準の高いインド系アメリカ人のみならず、オシャレなスポット好きの白人達にも人気のインド料理レストランが、ヒューストン中心部にあるPondicheri(ポンディチェリ)だ。2016年1月15日付けの地元の新聞Houston Chronicle電子版の記事、Pondicheri New York opening in months(ポンディチェリが数ヶ月でニューヨークにオープン)によると、そのPondicheriの支店が何とニューヨークのマンハッタンにオープンするという。ニューヨーク発のグルメがヒューストンに進出ということは多くても、逆にヒューストン発のグルメがニューヨークに進出というのは珍しく、応援の意味でも、このレストランの魅力に迫ってみたい。
長くインドにおけるフランスの植民地の中心として発達した、インド南部の港町の名前を冠するこのレストランは、ヒューストン中心部の中でも、オシャレなブティックやレストランが立ち並ぶ一角に位置する。
同じインド料理レストランと言っても、インド系住民が多いヒューストンの南西部にあるレストランは、店の外まで各種スパイスの香りが漂ってきたりするが、このPondicheriはそんな香りも無く、周りの風景とマッチした落ち着いた雰囲気だ。店内の内装も黒と茶色を基調にシックにまとめられている。
料理についても、アメリカ人の口に合う様に元々のインド料理からアレンジが加えられており、辛さは控えめだ。また、見た目にも楽しめる様に盛り付けも工夫されている。下の写真は、一番人気のブランチ向けメニューであるモーニング・ターリー。
ターリーとは、大皿に盛られたインドの伝統的な定食料理のことだが、Pondicheriのターリーは、キーマ、ウプマ(野菜)、ポテトの三種類のカレーに、ニンジンのパラータ(インドのパンの一種)、目玉焼き、サフランのヨーグルト、フルーツまでついた目にも鮮やかな料理となっている。大皿の上のどの料理を取っても食材や調理法に工夫しているのが感じられるし、全部食べても、胃に重たさは残らない。
オシャレ志向、ヘルシー志向のアメリカ人の心を捉えるそんな料理の数々は、女性のオーナーシェフであるアニタ・ジャシンガーニさんの卓越した想像力から生まれている。アニタさんは、インド古来の医療・食事法であるアーユルヴェーダから多くを学んでいるとしながらも、自分のオリジナリティーを出すことに躊躇しない。上記のHouston Chronicleの記事中でのインタビューの中で、彼女はこう語っている。
“We are trying to stay within them for some foods and totally breaking them for others. Life is too short not to. We’re also trying to not take ourselves too seriously otherwise life would be boring and we never want to be boring. We want to keep exploring.” (私たちはいくつかの料理ではアーユルヴェーダの伝統に従い、他の料理では完全にそれを破っているの。人生はそうしないには短すぎるわ。私たちは深刻に考えすぎない様にもしているの、そうじゃないと人生はつまらないでしょう。私たちは絶対に退屈したくない。私たちは冒険を続けたいの。)
彼女らが何千年もの歴史を持つインドの伝統を何とも軽やかに取り入れつつも、現代のアメリカにマッチした独自の料理を生み出せるその背景には、それぞれの文化が日々ダイナミックに再生産と変容を続けるヒューストンという都市の土壌があると思う。アニタさんは、ニューヨークの支店をオープンした後も、ヒューストンを離れるつもりはないことを語っている。
これからPondicheriが、同じく多文化都市であるニューヨークでどう受け入れられるか、今からとても楽しみだ。
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