惨劇から50年を経て―テキサスの大学で銃の所持が合法化

最近日本でも、アメリカでの銃にまつわる事件を見ない週はないと思える程、警官による黒人射殺事件やその報復としての警官銃撃事件が多発しているが、アメリカ南部テキサス州では8月1日から、銃撃事件を増やしかねない法律が施行された。テキサス州ヒューストンの地元新聞Houston Chronicle電子版の8月1日付の記事Guns are allowed on Texas college campuses. Now what?(銃はテキサスの大学のキャンパスで許可された。そして何が起きる?)によると、今月からテキサスの公立大学の構内で誰でも銃を所持することが合法化された。期せずして、2016年8月1日というのは、大学での銃所持に関してテキサスの人々の記憶に残る惨劇から50年後であり、それがこの法律に関する論争を劇化させている。

今から50年前の1966年8月1日、元海兵隊員のチャールズ・ウィットマンは、テキサスで最も有名な大学であるオースティンのテキサス大学(University of Texas)で、当時一般公開されていた時計塔の展望台に登っていった。307フィート(約94メートル)ある時計塔の展望台に着いた彼は、突如としてライフルを取り出し、眼下に見える人々を狙撃し始めた。海兵隊で射撃兵だった彼の銃口は90分で15人を殺害し、32人を負傷させるに至る。後になって判明したことでは、彼は脳腫瘍によって、感情のコントロールが困難になっていたのだ。

但し、銃口を向けられた人々もただ黙って撃たれていたわけではない。当時、テキサスの公立大学では銃の所持が合法化されていたため、テキサス大学の学生達は自らのライフルを手に取り、次々に時計塔のウィットマンを撃ち始めた。日本の大学では到底想像できない光景ではある。学生達の反撃がどの程度影響したかは不明ながら、最終的にウィットマンは駆け付けた警察官によって射殺される。

この事件は、アメリカの歴史上稀に見る大量射殺事件として記憶され、その後アメリカ全土の警察でSWATチームが広く配備されるきっかけともなった。しかし、テキサスの銃支持論者にとっては、この事件において一般の大学生たちが銃を手に取って反撃したという事実は長く、大学での銃所持を認めることの利益の実例として扱われ、今回の銃所持合法化においても、遂に生徒達が銃で自身の身を守ることができる様になったと歓迎する。

とは言え、多くの人々にとっては、大学という静かな環境で勉学に励む場において銃所持が合法化されるのは好ましいことではなく、オースティンのテキサス大学やヒューストンのヒューストン大学の教授陣の中には、今回の法律施行を理由に、テキサスを去ることを検討している人々もいるという。

アメリカで銃を巡る社会的緊張が高まる中、今回の新法施行が大学における新たな銃による惨劇のきっかけにならないことを切に願いたい。

↓下の写真はヒューストンにあるアメリカ南部で有数の私立大学であるライス大学のキャンパスの風景。テキサス州の私立大学では銃の所持が各大学の方針に委ねられており、ライス大学では構内における銃の所持が禁止されている。(Rice University Campus Carry

Rice

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