多くの日本の方々にとって、アメリカ南部に対するイメージの一つが「ハリケーンによる被害の多い地域」と言うものではないだろうか。アメリカ南部に上陸した2005年のハリケーン・カトリーナ、2008年のハリケーン・アイクの時には、僕自身はまだ日本にいたが、ハリケーンで壊滅的な被害を受けた街を映したニュース映像は今でも記憶に残っている。今回は、そうした過去の巨大ハリケーンを越える歴史上最強のハリケーン、「パトリシア」が最悪のタイミングで発生した。車好きのアメリカ人達が待ち望んでいたモータースポーツの頂点、F1アメリカGPのタイミングでである。今回は、F1アメリカGPの関係者達が、いかにこの悪天候に立ち向かったかを書いてみたい。
F1は通常、金から日の3日間を使って実施され、金曜と土曜の午前中に練習走行、土曜の午後に予選、そして日曜の午後に予選というスケジュールだ。しかし今回は、10月23日(金)の朝の時点で、歴史上最も強いハリケーン・パトリシアがメキシコの南の太平洋上に発生したことが全米のニュースを駆け巡り、ハリケーンの進行方向に位置するF1アメリカGPの開催地、テキサス州オースティンでも金曜午後には雨脚が強まり、同日午後の練習走行は悪天候のため中止になってしまった。
このままでは練習走行どころかグランプリ自体が中止になってしまうのではないかという懸念を抱きつつ、土曜の朝に僕は会場であるサーキット、Circuit of The Americasに向かう。予選が開始されるはずの時刻の午後一時ちょうどにサーキットに着いたが、F1名物の爆音が聞こえない。予選は悪天候のため30分延期になっており、周りに見えるのは、雨具を着て横殴りの雨に震える人々と、雨から逃げて唯一ある屋内のバーにごった返す人々だった。
結局、雨は激しさを増すばかりで、合計3時間延期になった後、予選は翌日の朝9時に延期になってしまう。いよいよ中止の二文字が頭をよぎるが、一方で希望に感じられたのは、各種報道において、メキシコに上陸した最強のハリケーン・パトリシアは、予想に反してメキシコで一気に勢力を弱めて熱帯低気圧に変わり、日曜の午後にはオースティンでも天候が回復すると報じられていたことだ。
明けて日曜日。残念ながら雨は降り続いているが、天候が回復することを信じて9時から予選を決行することがアナウンスされる。最悪のコンディションの中、ドライバーもピットクルー達もずぶ濡れになりながらマシンを調整し、決して悪くないラップタイムをはじき出して行く。結果として、チームとしての年間チャンピオンを争っているメルセデスとフェラーリが予選の上位に並ぶのには、流石としか言い様がない。
そして午後。ついに雨も上がり、人がまばらだった会場にも、続々とファン達が詰め掛けてくる。コース上では、バキュームカーで水の吸出しが行われ、少しでもコンディションを良くしようという関係者の必死の努力に頭が下がる。スタートが近づき、各チームのマシンがスターティンググリッドに並ぶと、そこはアメリカらしく、最前列には大きな星条旗が掲げられ、国歌が朗々と歌い上げられる。
レース自体も悪天候に負けないくらいの白熱の混戦で、まずスタート時の最初のコーナーで、二番手でメルセデスのハミルトンが、ポールポジションでチームメイトのロズベルグを強引に抜き去る。その後、セーフティーカーが二回投入される波乱の展開の中、フェラーリ、レッドブルを含む上位陣による抜きつ抜かれつの攻防が続いたが、残り数週でハミルトンが、前を走るロズベルグの一瞬のミスを突いてトップに返り咲き、そのままアメリカGPでの優勝を手にするとともに、2015年の年間チャンピオンをも確定させた。
歴史上最強のハリケーン・パトリシアにより、多くの人々がグランプリの中止を覚悟した中、的確な状況判断で、サーキットの歴史に残ると思われる名レースを実現させた関係者の努力に改めて感謝したい。
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