画家マーク・ロスコがヒューストンで到達した極致ーロスコ・チャペル

アメリカのアートの中心と言えばニューヨークであることは否定できないが、ニューヨークで叶わなかった願望をアメリカ南部で叶えたアーティストもいる。20世紀半ばのアメリカで流行した抽象表現主義(Abstract Expressionism)の代表的な画家の一人として数えられるマーク・ロスコ(Mark Rothko)もその一人で、彼のアーティストとしての人生は、ヒューストンにある巨大な作品ロスコ・チャペルでその極致に達した。

マーク・ロスコ自身はその生涯において、自らが抽象表現主義のアーティストに区分されることを拒否していたが、彼は1950年代当時、巨大なキャンバスや均一な平面に代表され、アメリカ発の美術潮流であった抽象表現主義のアーティストの一人と目されていた。1958年、彼はニューヨークで新たにオープンするフォーシーズンズホテルのレストランに掲げる壁画の注文を受ける。巨大なキャンパスに均一な色彩を持つ長方形を複数並べるという、独自のスタイルを確立させつつあった彼は、苦心を重ねてその仕事に取り組むが、結局自らのアートが上品な雰囲気のレストランに展示されることが耐えられず、途中で制作を放棄してしまう。

一方、そんな彼の作品に注目したのが、当時ヒューストン在住で、全米でも有数の美術収集家、そして、フィランソロピストとしても知られていたドミニクとジョン・デ・メニル(Dominique and John de Menil)夫妻だった。夫のジョン・デ・メニル氏は、現在世界最大の石油サービス企業であるシュルンベルジェ(Schlumberger)の創業者の一人で、夫妻はヒューストンの石油ガス産業がもたらす富を、アートという形で社会に還元する活動に力を注いでいた。

また夫妻は、当時世界的に広がっていた、キリスト教の教会一致を目指す運動であるエキュメニカル運動、そして、その運動に触発された同時代のアーティスト達の、精神性や宗教性の高いアート作品に感銘を受けていた。マーク・ロスコの作品を気に入った夫妻は、彼であればそうした神聖な空間をヒューストンに作り出すことができると考え、1964年、マーク・ロスコにチャペルの壁画の制作を依頼する。

フォーシーズンズホテル向けの仕事での経験もあり、アートを鑑賞する空間にも強いこだわりを持っていたマーク・ロスコは、この依頼に6年もの歳月をかけて全力で取り組み、1970年の突然の自殺によって彼の最後の作品となったこのロスコ・チャペルは、彼のアーティストとしてのキャリアの極致と評価されるに至った。では、現在は無料で一般公開されているこの作品を、著者なりに解説してみたい。

ヒューストンのダウンタウンの喧騒から離れ、小さな八角形のチャペルに一歩足を踏み入れると、内部の静謐な雰囲気にまず驚かされる。そして、チャペルの中央に進んだ者は、マーク・ロスコが心血を注いだ14枚の壁画に囲まれることになる。7枚は黒、もう7枚は濃い紫色で、全て大きな長方形のキャンバスがほぼ均一に塗られており、見る者に対して、安易な具体的な解釈を許さない。また頭上では、天井に空けられた穴から太陽の光が淡く差し込み、この空間の神聖な雰囲気を高めている。

そして訪問者は、自らがアートを鑑賞しているという状況を超え、静謐な空気の中、自らの内面、更には、現実を超えた超自然的な存在と向き合っているとの感覚を持つに至る。ロスコ・チャペルのウェブサイトによると、創設者であるドミニク・デ・メニル氏はロスコ・チャペルについてこう語っている。

“The Rothko Chapel is oriented towards the sacred, and yet it imposes no traditional environment. It offers a place where a common orientation could be found – an orientation towards God, named or unnamed, an orientation towards the highest aspirations of Man and the most intimate calls of the conscience.”

(ロスコ・チャペルは神聖なものを志向している一方で、何か伝統的な環境を強いることはありません。ここは(訪れる者に)人類に共通の志向を見出す場所を提供します。その志向とはつまり、人によっては神と呼ぶもの、人類が最も熱望するもの、そして、意識の奥底から湧き上がる呼びかけに対する志向なのです。)

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上の写真はロスコ・チャペルの入り口を映したもの。残念ながら内部は撮影禁止だが、ヒューストンに滞在する際には、ぜひ一人のアーティストがキャリアの最後に到達した極致であるロスコ・チャペルを訪れ、神聖な雰囲気の中、アートを見た自分が何を見出すか確かめて頂きたい。

↓ロスコ・チャペルのウェブサイトはこちら。

http://rothkochapel.org/

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投稿者:

Alamo

著者:Alamo アメリカ南部テキサス州に4年間在住。アメリカ南部の魅力を色々な視点から紹介できればと思っています!

「画家マーク・ロスコがヒューストンで到達した極致ーロスコ・チャペル」への2件のフィードバック

  1. 返信ありがとうございます!
    葵区出身なのですね!!

    僕が所属しているゼミでは来年2月に行う卒業制作のロケ地を決めるため
    毎週ゼミ生12人、1人1カ国企画プレゼンテーションを行っております。

    前回僕がテキサスをプレゼンした際、指摘されたことは。
    ・テキサスには通訳、取材許可をとってくれるコーディネーターが現地にいないと言うこと。
    ・日本でも、テキサスバーガーがはやり、テキサス=ハンバーガーと言うイメージは多少あるが、僕が紹介したハンバーガーショップはテキサスにまで行って食べる価値のあるハンバーガーなのかという疑問
    ・ハンバーガー、バーベキュー、ステーキと肉肉肉なため番組として肉以外の魅力を知りたい。
    ・テキサスのグルメを紹介したいのはわかるが、テキサスをどういう観光地として番組で紹介するのかが定まっていない。

    以上の指摘をうけました。

    ニューヨークやロサンゼルスと言った定番アメリカ観光都市がある中でのテキサスを観光地として紹介したいのですが、
    1、テキサスらしいハンバーガーとはどのようなものですか?
     またそれを味わうことのできるハンバーガーショップはありますか?
    2、ニューヨークやロサンゼルスなどの有名観光都市と差別化できるテキサス観光の良いところ(物価、アクセス、グルメ、アクティビティ、観光スポット、ホテル面など)を教えていただきたいです。

    お手数ですがご確認よろしくお願いします!

    1. 山田様、こんばんは。
      お互い色々と指摘し合って企画を高めるとはいいゼミですね。
      頂いたご質問に回答しますと、

      1、テキサスらしいハンバーガーとはどのようなものですか?
       またそれを味わうことのできるハンバーガーショップはありますか?

      実は日本で流行っているらしいテキサスバーガーは食べたことがないのですが、
      テキサスのグルメバーガーはきっとテキサスまで行って食べる価値があると思います。
      特徴としては、基本的にサイズがデカいのと、素材、特にハンバーグの味に対する強いこだわりです。
      ハンバーガーのハンバーグに対するイメージが変わりますよ。

      おススメのお店は依然このブログでも紹介したファドラッカーですね。

      日本未進出のこだわりハンバーガー Fuddruckers

      2、ニューヨークやロサンゼルスなどの有名観光都市と差別化できるテキサス観光の良いところ
      (物価、アクセス、グルメ、アクティビティ、観光スポット、ホテル面など)を教えていただきたいです。

      物価という意味では、石油産業を抱えるテキサスのガソリンの値段は全米で一番安いので、
      テキサスらしいデカいアメ車をレンタカーしても、思う存分運転して回れます!
      観光スポットは以前ご紹介した通りですが、それ以外にもSouthern Hospitalityといって、
      基本的にアメリカ南部の人は訪問客に対して驚くべきほど親切なので、
      旅行中に思わぬ親切に触れることができるかもしれません。

      私は何度か車で溝にはまったことがあるのですが、その度に周りから人が集まってきて、
      みんなで車を押して溝から引き揚げてくれました(笑)

      お役に立っていれば嬉しいです。

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