アメリカ南部の映画② シェフ–アメリカ料理の奥深さがわかる映画–

2020年6月現在、日本の東京は未だに新型コロナの新規感染者が増減を繰り返し、まだまだ自由に外食や旅行をするのには時間がかかりそうな状況だ。そんな状況だからこそ、せめて画面の中では広い世界を旅してみたいということで、Netflixで見ることができる2014年公開の映画『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』について書いてみたい。

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皆さんはアメリカ料理と言われて何を思い浮かべるだろうか?思いついてもハンバーガーやステーキくらいという方が多いのではないだろうか。しかし、アメリカの各地域、特にアメリカ南部の各地域では、その地域ならではの特色ある料理を味わうことができる。そしてこの映画では、主人公達と共にフードトラックに乗りながら、各地の料理を擬似体験できる。

映画自体のあらすじとしては、SNSで料理評論家に酷評され、職を失ったロサンゼルスの元一流シェフが、元妻の援助で中古のフードトラックを手に入れ、息子や友人とともに、アメリカ南部を旅しながら、再起を図るというストーリーだ。

旅のスタート地点はフロリダ州マイアミ。街を歩いていても、英語よりもスペイン語を耳にする機会の方が多いと思えるこの街は、ラティーノ、特にキューバ系移民の人口が多く、キューバ系移民のコミュニティの中心がリトルハバナだ。主人公のシェフはリトルハバナで、キューバサンドイッチ(Cubanos)や、カリブ海の恵みを活かしたキューバ料理に感動し、フードトラックでの営業を決意することになる。

次の街はルイジアナ州ニューオーリンズ。アメリカの中でも独特な文化を持つこの街は、旧フランス領植民地であった歴史から、フランス料理と土着の食材が融合したケイジャン料理の中心地だ。ここでは砂糖たっぷりのドーナツであるベニエや、ルイジアナ風サンドイッチであるポボイに出会うことになる。映画では余り出てこないが、ニューオーリンズと言えば、マルディグラのお祭り騒ぎやジャズ文化も外せない。

そして我らがテキサス州では、サウス・バイ・サウスウエストという音楽祭で最近日本でも話題になった州都オースティンに向かう。ここでシェフが料理するのは、このブログでも何度も取り上げているテキサス・バーベキューだ。肉を長時間かけてスモークすることで、肉の旨味はギュッと凝縮される。日本で一般的なバーベキューとは似て非なるテキサスらしい無骨な料理だ。

どうだろうか。それぞれの料理について、日本に専門店もあまり無いため、文章だけではイメージが掴みにくいかもしれない。各料理の魅力を味わうためには現地に赴いていただくのが一番だろうが、それができない今は、まずはこの映画を味わって欲しい。

アメリカ南部の映画① ダラス・バイヤーズ・クラブ

冒頭からテキサスのカウボーイ達の魂であるロデオの場面から始まり、石油掘削、銃、テキサス州旗と最後までテキサス全開な映画が、2014年日本公開の映画、ダラス・バイヤーズ・クラブだ。2013年のアメリカ公開の時点から評価は高く、主演のマシュー・マコノヒーと助演のジャレット・レトは2014年アカデミー賞の主演男優賞と助演男優賞をそれぞれ獲得した。人々の偏見、そして、規制当局の権力と闘い続けたテキサスの一男性を描いた実話である。

舞台は1985年、テキサス州の主要都市の一つであるダラス。日本ではケネディー大統領暗殺の舞台としても有名だ。当時のダラスでは今以上に男らしさを強調するマッチョイズムが息づいていた。現在のテキサス州でも公共の場でカウボーイ・ハットを被っている人はいるが、当時のダラスは、多くの人々が公共の場でカウボーイ・ハットを被っていた場所だった。

そんな当時の社会においては、エイズは同性愛者がかかる自業自得の病気であると偏見の目で見られていた。物語の主人公であるマシュー・マコノヒー演じるロン・ウッドルーフも、生粋のカウボーイであり、「エイズ患者=同性愛者」と信じていた。しかし、ある日職場の事故で入院したロンは、検査の結果、自分がエイズに感染していることを知る。

始めは自分が置かれた状況が理解できないロン。しかし、異性との性交でもエイズに感染することを知り、エイズ患者であることで友人達からも避けられたロンは次第に自分の運命を認識していく。死の恐怖にさいなまれたロンは、当時エイズ治療の新薬として治験が始まっていたAZTの服用を求めるが、主治医からは拒否されてしまう。

これが日本人を主役にした映画であれば、次第に衰弱しながら、エイズであることを受け入れていく、といった筋書きの感動作となるだろう。しかし、この映画はテキサスのカウボーイの実話。それからのロンの行動は我々の想像を超える。

生きることへの強い意志を持ったロンは、当時アメリカでは未承認であったエイズ治療薬をメキシコや日本などの外国から密輸し、その新薬を定額を支払ったエイズ患者の会員達に配る組織、「ダラス・バイヤーズ・クラブ」を始めるのだ。当然、彼の行為は、アメリカにおける新薬の承認機関であるFDA(アメリカ食品医薬品局)などの妨害に合うが、自分自身を含め、未承認の新薬が最後の希望となっているエイズ末期患者のためにロンは不屈の精神で抵抗を続ける。

そして、ロンの生き様がもたらしたものとは…

典型的なテキサス・カウボーイとしてのロンの性格に始まり、登場人物がテキサスなまりの英語を話し、ビールを飲むシーンでは、テキサスで愛される地ビールであるシャイナ・ボックが必ず出てくるなど、とにかく全編にテキサスが出てくる映画だ。

カウボーイなんてただの田舎者と思う人こそ、このダラス・バイヤーズ・クラブで実在したカウボーイの生き様を感じてほしい。