古今東西、世界には多くの博物館がある。大英博物館の様に世界中からありとあらゆる事物を収集した場所もあれば、鉄道博物館という様に、特定の事物に特化した場所もある。そして、石油ガス産業が主要産業であるテキサス州ヒューストンには、石油ガス産業に関する博物館がいくつもあるのだ。日本人には馴染みの薄い石油ガス産業の世界をわかりやすく紹介する石油ガスの博物館をここで紹介してみたい。
まずは、ヒューストン最大の博物館であるHouston Museum of Natural Science(ヒューストン自然科学博物館)。ここは、一般には全米最大規模の恐竜の化石を所蔵することでも有名だが、この博物館の一角にWiess Energy Hallと呼ばれる石油ガス産業に関する展示を集めた大きなスペースがある。
展示としては石油ガス産業の上流から下流への流れに沿って続いていて、石油ができる仕組み、石油の探鉱(Exploration)、掘削(Drilling)、生産(Production)、加工(Process)、輸送(Transportation)など、石油ガス産業のそれぞれの工程に関する最新技術を、豊富な実物の展示や作りこまれた映像を通して学ぶことができる。
なかでも目玉は、Geovator(ジオベーター)と呼ばれるアトラクションで、約2,300メートルの地下にある石油の層まで、実際に井戸の中を通って降りていく様な気分になり、石油掘削と生産の現場を疑似体験することができる。映像や音響は博物館とは思えない程凝っていて、特に米国のシェール革命を可能にした最新技術Fracking(水圧破砕)を疑似体験できるのは、石油ガス産業に携わる者にはたまらない。
次に紹介するのは、Ocean Star Offshore Drilling Rig and Museum。ここはヒューストン中心部から南東に一時間程車を走らせたガルベストンという街にあり、目の前にはメキシコ湾が広がっている。メキシコ湾は世界中でも、海上油田や海上ガス田が多いことで知られ、石油ガス産業が発達するにつれて、メキシコ湾の中でもより深い場所(Deepwaterと呼ばれる)にある石油ガスを掘るために、リグと呼ばれる掘削用のやぐらが進化してきた。
ここはそんな海上用のリグの詳細やリグの進化の歴史が学べる、おそらく世界でも唯一の博物館であり、リグに関する展示物は数多い。何しろ博物館の外側に、実際に海上掘削に使用されたリグがそのまま展示されているのだ。かなりマニアックな博物館ではあるが、ガルベストンではここ以外にも修理中の巨大なリグをそこかしこに見ることができ、自然にリグについて興味が沸いてくると思う。
写真は修理中のリグとその近くに停泊中のカリブ海クルーズのクルーズ船。こんな景色が見られるのもガルベストンならではだろう。
と、読者の皆様はただの工場が写っているだけだと思っただろうが、ヒューストンはテキサス州各地で生産される石油や天然ガスを背景に、世界最大の石油化学プラントの集積地となっている。特に、ヒューストンの東の郊外、Houston Ship Channelと呼ばれる石油タンカーが通る運河が内陸まで入り組んでいるエリアに巨大なプラントが多く、その辺りを運転するだけでも、一面に広がる石化プラント群に圧倒される。更に、一般人でも意外と近くまで接近することができるので、石油を精製するプラントが吐き出すフレアと呼ばれる炎さえ見ることができるのだ。石油ガス産業を理解するための博物館という意味では、この石化プラント群も一つの博物館と考えることができると思う。
ヒューストンの観光地というと何といってもNASAが有名だが、石油ガスの街であるヒューストンを訪問した際は、ぜひこうした博物館に足を運び、石油ガス産業の持つダイナミズムを実感して頂きたい。
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